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大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)4192号 判決 1964年5月16日

別紙の選定者目録記載一二四名の選定当事者

原告

土屋保

右訴訟代理人弁護士

福岡福一

被告

株式会社丸島水門製作所

右代表者代表取締役

島岡信治郎

右訴訟代理人弁護士

大沢憲之進

門間進

主文

被告は原告に対し金二五六万二、六八四円及びこれに対する昭和三四年九月二〇日以降右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金八〇万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。

事   実<省略>

理由

一、(当事者間に争いない前提事実)

被告が水門の製作、請負工事等を業とする株式会社であり、原告を含む別紙一の選定者目録記載の一二四名の者がいずれも被告会社の従業員であつて、かつ日本労働組合総同盟丸島水門製作所労働組合の組合員であり、又あつたこと、右丸島水門製作所労働組合、来昭和三四年五月二日の労使協議会の席上で、その執行部を通じ、口頭を以て被告会社に対し、一ケ月金三、〇〇〇円の賃上要求の意思表示をなしたこと、被告会社が右賃上要求に対し一ケ月金八〇〇円の賃上げに応ずる旨の回答をなしたこと、その後組合は右賃上要求につき被告会社と数回団体交渉を重ね、同年五月一八日重ねて被告会社と団体交渉を持つたこと、組合が同年五月一九日被告会社に対し斗争宣言を通告したこと、被告会社が同年六月二日組合に対し、「会社は組合の怠業及び部分ストに対抗して止むなく昭和三四年六月二日始業時から当分の間事業場を閉鎖する。この間組合は事業場(組合事務所及び通用門より組合事務所に至る通路を除く。又療生は従来通り社長宅勝手門から出入すること)に立入つてはならない。又この間の賃金は支払わない。」旨通告してロックアウトを宣し以後同年七月六日迄右ロックアウトを継続して、その間原告を含む別紙一の選定者目録記載の一二四名の就労を拒否したこと、以上の各事実についてはいずれも当事者間に争いがない。

二、(ロツクアウトの本質、その法的根拠及び適法性の限界等について)

そこでまず、原告を含む別紙一の選定者目録記載の一二四名の者が原告主張の如く右ロックアウト期間中の賃金請求権を有するか否かを判断する前提として、一般的にロックアウトの本質その法的根拠及びその適法性の限界等について考察することとする。

(一)  凡そロックアウトとは使用者のなす争議行為であつて、その本質は使用者が雇傭契約関係を存続させながら集団的に労働者の就労の拒否、すなわち労務の受領を拒否し、かつその効果として当然に右ロックアウト期間中の賃金の支払義務、その他労働者に対する一切の民事上の責任を免れ得るところにあると解すべきであり、又右ロックアウトはその宣言(意思通告)のみによつて成立し、勿論これを明確ならしめるための措置は要請されるが所謂事実上の閉出し行為はその成立要件ではないと解すべきである。けだし、(1)労働者が労働者のために設けられた福利厚生施設や組合事務所等を除く使用者の工場、その他の企業設備に立入り、かつこれを使用できるのは、使用者との間に締結した労働契約に基く債務の履行(労務の提供)をする前提としてこれをなし得るに過ぎず、右債務の履行と離れて労働者に右工場その他の企業設備に立入り、かつこれを使用する固有の権利は原則としてないと解すべきであるから、労働争議に際し、労働者側が生産管理やストライキに付随して工場その他の企業設備を占拠し、又は破壊する等の行為に出た場合において、使用者が右工場その他の企業設備を維持、保全する必要から右労働者側の行為の排除をするためには、労働者側の団結権その他の労働基本権を不当に侵害するとか、その他いわゆる権利の濫用にわたらない限り、一般の物権的請求権に基く妨害排除と同様に企業所有権に基いて当然にその排除をなし得るのであつて、争議行為としてのロックアウトをした上でなければ右排除をなし得ないと解する必要はなく、したがつて右の如き労働者側の行為を排除するための所謂閉出しはロックアウトの本体ではないと解すべきであるし、(2)又使用者がロックアウトにより故意に労働者の就労拒否、すなわち労務の受領を拒否したことを理由に受領遅滞の責任を負い、自己の反対給付たる賃金の支払義務、その他の民事上の責任を免れ得ないとするならば、右ロックアウトにより労働者に何等の痛痒も与えることにならず、その争議行為としての実効性がほとんど失われるからである。

したがつて、争議行為としてのロックアウトの本質は、前記の通り使用者が集団的に労働者の就労を拒否し、かつその効果として当然にその期間中の賃金支払義務、その他労働者に対する一切の民事上の責任を免がれ得るところにあると解すべきである。

(二)  ところで我が現行法上、労働者の争議権については憲法その他の法律でこれを保障しているのに対し、使用者の争議権については実定法に何等これを保障する明文の規定のないところから、右の如きロックアウトを法律上適法なものとして容認し得るか否か、又容認し得るとすればその根拠如何等については種々議論の存するところである。

しかしながら、労働者はその争議権の保障の下に、労働条件の維持改善に関する自己の主張を貫徹するため、集団的にストライキ、怠業その他の争議手段に訴えて適法に使用者の正常な業務を阻害し得るのであるから、いわゆる集団現象としての労働争議における労使双方を支配する衡平の原則乃至は法秩序全体を支配する条理等から考えて、現行法の下において使用者側においても、その必要性のある場合には、右労働者側の争議行為に対抗する措置として、適法に労働者の就労を拒否し、かつその効果として当然に賃金の支払義務その他労働者に対する一切の民事上の責任を免れ得るいわゆるロックアウトを行うことも許されると解するのが相当である。けだし、使用者については明文による争議権の保障規定がないことのみから、直ちに労働争議に際し、使用者側において如何なる場合にも労働者側の争議行為に対抗する措置をとることは許されず、そのなすがままに従わなければならないと解することは、前記衡平の原則に反し、条理にもとるものといわなければならないし、(2)、又そもそも我が現行法が憲法その他の法律により、労働者に争議権を保障した所以のものは、団結権、団体交渉権の保障と相まつて、もともと経済的、社会的に弱者の立場にある労働者の地位を使用者と対等の立場に引上げ、以て労使等の立場で労働条件その他に関する交渉、取引を行わせようとしたものであるから、右労使対等の均衡を失わせない限り、使用者において労働者の行う争議行為に対抗するための必要な措置としてロックアウトをなし得ると解しても、右労働者の争議権その他の労働基本権を保障した憲法その他の法律の精神に反しないのみならず、(3)、却つて具体的な労使関係において、労働者側の勢力が強大となり、その争議手段が強烈なため、使用者側がいわゆる弱者の地位に立された場合には、使用者側において右労使双方の勢力の均衡を回復する争議手段としてロックアウトを適法になし得るものと解することが、前記労働者側の争議権その他の労働基本権を保障した法の理念に副うものと解すべきであるからである。

(三)  次にロックアウトは右の如く使用者の争議行為として法律上容認されるとしても、その正当性の限界については自から一定の制限があるものといわなければならない。すなわち、労働者は就労して得る賃金を以てほとんど唯一の生活手段としており、労働者が就労して賃金を得ることができるか否かは直接人間としての生存に連なる問題であつて、労働者はいわばその労働争議において生存を賭しているのに対し、労働争議により使用者側が正常な業務を阻害されるか否かは主として利潤の得喪に関する問題であつて、使用者側はその労働争議において右利潤すなわち物質を賭しているに過ぎないから、通常の場合においては、使用者側がその争議手段として行うロックアウトにより労働者側に与える効果は、労働者の争議行為により使用者側に与える効果の如何なる場合にも比して、はかるに強烈である。したがつてかかる観点からすれば、ロックアウは労働者側の争議行為と全く同列対等の立場で無制限にこれを許容することはできず、その正当性の限界については、労働者側の争議行為に比し、より厳格な制限があることはいうをまたない。

ところで右トロックアウトの正当性の限界については、いわゆる先制的・攻撃的なものは不法であるとか、労働者側の勢力が強大であり、そのとる争議行為が強烈であつて使用者側にその企業のよつて立つところの基盤を崩壊せしめるような異常な損害を与える場合でなければ許されないとか、或はまた労働者側の争議行為によつて企業の存立がおびやかされるような急迫した具体的危険性乃至これに類する緊急性がある場合に限つて許されるとかその他種々議論の存するところである。しかしながら現実に生起する労働争議の構造はしかく簡単なものではないのであるからこのように抽象的概念的にしぼつて考察することは正当ではない。すなわちロックアウトの正当性は、具体的な労働争議につき、労使双方の勢力関係労働者側のとり、またはとらんとする争議手段方法、並びにこれによつて使用者側の受けまたは受けるおそれのある打撃の程度その他争議における労使双方の間に存するあらゆる具体的事情を個別に判断し、使用者側に労使間の勢力の均衡即ち労働者側との対等の地位を回復・保持する必要があり、かつそのためには、前記衡平の原則や条理等に照らし、ロックアウトをするもやむなしと認める事情のある場合において、ロックアウトを行う正当性があるものと解するを相当とし、その正当性の限界は右の観点に求め、ケースバイケースで決するほかないといわなければならない。

三  (本件ロックアウトが正当なものであるか否かについて)

そこで次に、被告会社のなした本件ロックアウトが前記観点に照らし正当なものであるかについて判断する。

(一)  まず、組合が昭和三四年五月一九日斗争宣言をなすに至るまでの経過について判断する。

前記一の当事者間に争いのない事実に、<証拠―省略>並びに弁論の全趣旨を綜合すると次の如き事実を認めることができる。すなわち被告会社の従業員からなる日本労働組合総同盟丸島水門製作所労働組合は、昭和三三年八月六日にはじめて結成され、同年中に合計一ケ月金三、〇〇〇円の賃上げを獲得したこと、(2)しかして右賃上げの結果、その後昭和三四年四月当時における原告を含む別紙一の選定者目録記載の者等被告会社の従業員の平均賃金は、本俸のみを基準とした場合は一ケ月金一万五、五〇〇円、本俸及び諸手当を合したものを基準とした場合(いわゆる基準内賃金)は一ケ月金一万六、五四五円であつたところ、組合は当時における同業他社の平均賃金は一ケ月金二万一、〇〇〇円であると判断し、被告会社の原告等従業員の賃金は右同業他社に比し低廉であるとして、同年四月二八日の組合大会において、定期昇給分金一、〇九〇円を含め、一律一ケ月金三、〇〇〇円の賃上げ要求をすることに決定し、同年五月二日の労使協議会の席上で、その執行部を通じ口頭を以て被告会社に対し、右一ケ月金三、〇〇〇円の賃上げ要求の意思表示をなしたこと、(3)これに対し、被告会社は当時における被告会社の従業員の平均年令や平均勤続年数を考慮するときは、当時における被告会社の平均賃金は同業他社に比し、決して低廉ではないのみならず、却つて一ケ月金一、三〇〇円余り高額であると判断し、かつ当時の被告会社の先行(さきゆき)は不安であると考え、これらを理由に組合の前記要求は一ケ月金八〇〇円の限度でしか応じられないとして、同月九日の労使協議会において、組合に対しその旨を回答をしたが、組合はこれを不満として結局両者の話合いはつかなかつたこと、(4)ところで組合はその後も一応引続き団体交渉で平和裡に右賃上げ要求の妥結をはかるべく、同月一三日、同月一五日の両日被告会社と団体交渉を持つたがいずれも折合がつかず、更に同月一八日重ねて開かれた団体交渉においても、被告会社は前記一ケ月金八〇〇円の賃上額を固執して譲らず、組合側も又その要求額を譲らなかつたため、交渉は決裂し、そのままの状態妥結の見込がなくなつたので、組合は翌一九日被告会社に対し、斗争宣言をするに至つたこと、(5)なお、組合は右斗争宣言をするに際し、当時生活苦に喘いでいた組合員が多かつた等の組合内部の完情を考慮し、斗争方針として、所謂組合員の賃金請求権を喪失するに至るが如きストライキや怠業等の争議手段に訴えることは避け、被告会社の周辺に宣伝ビラを貼り、組合旗を立て、或は休慰時間等の就業時間外に労働歌を歌い、デモ行進をする等の柔軟斗争を行うことを決定したこと、以上の如き事実が認められ、(中略)他に右認定を覆すに足る証拠はない。

ところで、被告は、組合は(イ)前記労使協議会や団体交渉に際し、組合員全員を無断で被告会社に残留せしめ、時には被告会社側交渉委員を包囲して罵言を浴びせ、赤旗を室内に持ち込み、年結による威赫を行つたとか、(ロ)又前記五月一五日の団体交渉の際には、被告会社側委員が退場せんとした際、多数の組合員が乱入してきて出入口を封鎖し、総務部長の身体にタックルをし、口々に「総務部長をひきづり出せ」と罵り、会社側委員に集団的な暴行を加えまじき形勢をみせた旨の主張をしているが、右被告の主張事実に副う証人<省略>の証言はたやすく信用できず、他に組合が被告会社主張の右(イ)(ロ)の如き暴行、脅迫を加えて団体交渉をしたとの事実を認め得る証拠はない。

なお、証人<省略>の各証言によれば、被告会社の当時の工務部長島岡富夫が、昭和三四年五月一六日、被告会社の機械工場内において、一組合員が選挙用のビラを配布しているのを認めてこれに注意を与えたところ、附近にいた組合員が右工務部長を取り囲んで同人に非難を浴びせたことが認められるけれども、右事実から直ちに組合がその団体交渉おいて暴行、脅迫を用いていたということはできない。

(二)  次に被告会社が本件ロックアウトをなすに至つた事由として主張する個別的事情について判断する。

(1)  暴力行為について、

(イ) <証拠―省略>を綜合すると次の事実を認めることができる。すなわち、

(ⅰ) 組合は前記斗争宣言をした後の昭和三四年五月一九日以降、前述の如き斗争方針に従い、多数の古新聞紙に、墨、インキ等で、「一人一人の団結が成功の鍵」とか、「戦い抜こう我等の要求……」「会社の泣言を吹飛ばせ」等と記載したアジビラや、「まだ見覚ぬか経営者大正時代は過ぎている」、「ドンと儲けて自分達ばかりで山分けする丸島経営者とか、「丸島の番犬工務」とか、その他被告会社乃至被告会社の役員を誹謗する文言を記載したビラを被告会社の工場、事務室、応接室等の窓ガラス、壁、天井、什器、カレンダーやその他被告会社正門前の塀、会社門標等に乱雑に貼りつけ、又被告会社の門、塀や、工場の屋根等に多数の赤旗を立てたこと、

(ⅱ) 又組合は右斗争宣言後、被告会社の構内中央にあつた組合事務所の窓に、被告会社に無断でマイク二基を備えつけ(当時マイクを備えつけ)るには被告会社の許可を得ることになつていた)、休憩時間中は勿論、時には就業時間中にも、被告会社やその役員を誹謗する内容の放送や、或は後記の如く被告会社が保安要員として雇入れた人夫の退去を求める内容の放送をなし、甚だしいときには、組合員が携帯マイクを持つて放送をしながら被告会社の工場を廻つたこと、

(ⅲ) 更に、休憩時間中又は終業後に、組合員はスクラムを組んで労働歌を歌つたり、或は附近をデモ行進し、時には被告会社の事務所内にまでもデモ行進を行つたこと、又前記斗争宣言後は若干の組合員が被告会社の意思に反し被告会社の少年工の宿泊所に泊り込んで残留したこと、

(ⅳ) 次に組合員の一部は、被告会社の工務部長や資材部長又はその他の職制等が被告会社の各工場内に巡視に廻つて来た際、その後をつけて暴言を吐いたり、鉄板をハンマーで叩く等のいやがらせ行為をしたこと、そして昭和三四年五月二三日には、偶々被告会社の製缶工場を巡視していた工務部長の島岡富夫に対し、組合員が鉄板や製缶用のハンマーを投げつけ、更にその後右工務部長を組合員が取り囲んで気勢をあげ、そのなかに入つた保安要員の武田明が転倒させられて治療約三日間を要する左下腿打撲傷を負つたことがあること、

以上の如き事実が認められ、(中略)他に右認定を覆すに足る証拠はないし、又被告主張の二の(二)(1)の(イ)乃至(ハ)の事実のうち、右認定以外の事実(但し、怠業の点については後記の通りである)については、これを認めるに足る証拠はない。

(ロ) ところで一方、(証拠―省略)を綜合すると、次の如き事実が認められる。

(ⅰ) すなわち、被告会社は組合が斗争宣言を発した前後の頃から、本件争議に備えるため、かねて被告会社の下請会社として被告会社に出入していた訴外生野建設株式会社の米田社長に依頼して同建設会社の臨時保安要員として雇入れ、これを被告会社に配置したこと、そして右臨時保安要員として雇入れた生野建設の人夫は、当初は五、六名であつたが、その後次第にその数が増加し後には二〇数名になつたこと、

(ⅱ) ところで右臨時保安要員として雇入れられた生野建設の人夫等は、前記斗争宣言後不必要に原告等組合員を刺激する行動に出て、就業時間に被告会社の工場に立入り、そのうちのある者は、裸になつて入墨をみせ、或はスコップや三尺位の棒を持つて工場内を歩き廻る等して作業中の組合員を威嚇し、時には右組合員に対し、「(俺は)前科者だ、一対一で勝負しよう」とか組合員が胸につけている名札をみつめ、「名前を覚えて外でやつてやる」、「会社を出たら何時血をみるようなことがあるかわからんぞ」等との脅迫的言動をなしたこと、

(ⅲ) 又組合員が前記の如く休憩時間又は終業後の時間を利用して労働歌を歌いじぐざぐ行進をしている際に、右人夫等は組合員を棒で突き、手拳で殴打する等の暴行を加えた外、組合の貼つたビラをはがすため工場内に立入つた組合員に暴行を加えたこともあり、そのために昭和三四年五月二三日には、組合員の大木市太郎が全治約二週間を要する右側胸部打撲傷の傷害を受けたこと、

(ⅳ) その間にあつて、組合は昭和三四年五月二一日、被告会社に対し、同日付書面(甲第一号証の原本)を以て、右被告会社が臨時保安要員として雇入れた人夫に対する善処方を要求し、又前記組合事務所の窓に備えつけたマイクやその他口頭を以てしばしば即時右人夫等を退去さすよう求めたが、これについては何等の効果もなく、右人夫等は前記の如くその後も引続き組合員に対し、暴行を行つてその組合活動を抑圧するような行為をしたこと、

(ⅴ) なお、組合員の一部が被告会社の工務部長その他の職制に対し、前記(イ)の(ⅳ)に認定の如き各行為をなした原因については、右職制臨時保安要員として雇入れた人夫等を伴つて作業場の巡視に来た際、右人夫等の言動及びこれを雇入れた被告会社の態度に強い反感と不満を抱いていた組合員の一部が、右職制の巡視の機会をとらえてこれに抗議しようとしたことに端を発したものが大部分であること、又組合が前記の如くマイクで放送をしたもののなかには、被告会社に対し、右人夫等を退去さすよう求めてこれに抗議した内容のものも相当あつたこと、

以上の如き事実が認められ、<中略>他に右認定を覆すに足る証拠にない。

(ハ) しかして以上(イ)、(ロ)に認定の各事実を綜合して考えるに、前記(イ)の(ⅲ)の事実のうち、組合員が休憩時間内又は終業後にスクラムを組んで労働歌を歌い、或は附近をデモ行進したことは、それ自体違法な争議行為とは解し難いが、同(イ)の(ⅰ)の組合がその争議手段としてなしたビラ貼りについては、その内容及び貼付の場所等について多少違法のそしりを免がれない点があり、又同(イ)の(ⅲ)のうち右組合員が被告会社の事務所内にデモ行進をし、或は組合乃至組合員が同(イ)の(ⅱ)(ⅳ)に認定の如き各行為をなすことによりその職場秩序か多少乱れたことが認められる。しかしながら、右ビラ貼りの違法をとらえて本件ロックアウトをなす正当性があるといい難いことは勿論であり、又組合乃至組合員が前記の如く職場秩序を乱すような行動に出たもののうちには、前記(ロ)に認定の如く、被告会社において雇入れた人夫等が組合員に対し、数々の暴行、脅迫を加えて組合員に圧力を加えたことに基因するものもかなりあるから、右職場秩序の乱れたことについては、被告会社にもその責任の一半があるものといわなければならないし、更に右職場秩序の乱れたこと以外に、前述の如き組合乃至組合員の行動により、被告会社の生産設備が積極的に破壊されたこと等を認め得る証拠はない。(なお、右職場秩序の乱れたことにより、作業能率が低下した点については、後記(2)に述べる通りである。)したがつて結局、前記(イ)の(ⅰ)乃至(ⅳ)に認定の如き組合乃至組合員の行為、並びに前記(一)の末段に認定した斗争宣言前の暴のみをとらえ、そのことから直ちに被告会社において本件ロックアウトをなす正当性があつたものとは到底認め難い。

(ニ) なお、<証拠―省略>によれば、組合員は、昭和三四年六月二日以降、大勢で被告会社の通用門を突き倒して被告会社の工場内になだれ込んだり、又被告会社の工場や被告会社の社長私宅の屋根に上り、木片や鉄板で右屋根を叩き、或はスピーカーや強力ベルを高音で鳴らす等、その他数々の被告会社乃至被告会社の役員に対するいやがらせ行為をなしたことが認められるが、右はいずれも本件ロックアウトが宣言された後のことであるから、本件ロックアウトをなすについての正当事由とは直接関係のないものである。

(2)  怠業行為について

次に、被告は、組合は本件争議中その争議手段として怠業を行い、そのために、別紙五の「怠業期間における職務別生産能率表」及びこれを基礎として作成した別紙六の「怠業期間中における職場別生産能率集計表」に記載の通り、前記斗争宣言のなされた昭和三四年五月一九日から同年六月一日までの間の作業能率は、平均して平常時の三六、七%にまで低下し、殊に同月三〇日午後及び六月一日の如きは就労皆無の状態となつたし、又右期間中の損失工数は、現場だけで五三九人強に及んでいる旨の主張をしているところ、証人<省略>の各証人は、いずれも右被告の主張事実に副う趣旨の証言をしている。しかしながら、(イ)、別紙五及び同六の各表に記載されている具体的な数字の正確性については、原告においてこれを極力争つているところ、証人<省略>等はいずれも、「別紙五の表の実消費工数欄に記載の数字は、本件争議中に被告会社の作業現場における班長又は副班長から毎日報告された作業日報を基礎とし、又同じく基準工数欄に記載の数字は過去の正常時における被告会社の生産計画乃至作業実績を基礎として、それぞれ右本件争議中及び平常時における各作業量を統計的に算出してこれを数字に現わしたものであり、右各表に記載されている数字はすべて正確なものである」との証言をしている。しかしそれ以上に、右の如く統計的に算出された数字が正確なものであると推認できる具体的根拠、すなわち、別紙五の表の実消費工数及び基準工数欄その他同五、六の各表に記載の各数字を統計的に算出するための基礎とされた本件争議中及び平常時の作業状況を現わす個々の具体的数字及びその正確性については何等の立証もないばかりでなく、証人<省略>の各証言及び弁論の全趣旨によれば、被告会社主張の基準工数は、被告会社の過去における作業実績から特定の製品を製作するに必要な延人員等を勘案して、その作業量(工期)を統計的に数字に現わしたものであるが、右基準工数として現わされた数字は、一応の基準を現わしたに過ぎないのであつて、必ずしも客観的に確定した不動かつ正確なものでないことが認められるし、又証人<省略>の証言によれば、当時被告会社の木工場及び倉庫においては、被告主張の作業日報は全く作成されていなかつたことが認められる。したがつて、前記の如く原告において別紙五及び六の各表に記載の各数字の正確性を極力争つている本件においては、前記証人<省略>の各証言のみから、直ちに別紙五の表の実消費工数欄、基準工数欄、その他に記載の各数字及び同五の表を基礎として作成された同六の表に記載の各数字が正確なものであるとは即断し難い。(ロ)のみならず、本件争議当時、被告会社の従業員であつて、かつ組合員であつたものは、前記の如く少くとも一二四名であつたことは当事者間に争いなく、又別紙五の表はそのうちの三四名を抽出し、又別紙五の表はそのうちの三四名を抽出し、これを対象として作成されたものであることは、右表の記載自体によつて明らかなところ、証人<省略>の証言によれば、当時被告会社は、中学校を卒業して一、二年を経たばかりの所謂作業能率の低い少年工(見習工)が全部で一三名いたが、別紙五の表に記載の統計の対象者三四名のうちには、右一三名の全少年工のうち、その大部分に当る一二名が含まれていること、又その余の右対象者についても、平均勤続年数三、五年を上廻る作業能率の高い者はわずかに一〇名に過ぎず、その他はいずれも勤続年数三、五年以下の経験の少ないものであること、したがつて別紙五の表は、被告会社の全従業員のうち、全体として作業能率の低い者を比較的多く抽出して作成されていることが認められる。ところで一方、証人<省略>の各証言及び弁論の全趣旨によれば、被告主張の作業能率の低下割合を算出する基準となつた別紙五の基準工数欄に記載の数字は、いずれも右表に記載されている対象者三四名各自の平常時における前記基準工数を現わしたものではなく、一般の作業者の平常時における基準工数を現わしたものであることが認められる。してみれば右実消費工数欄及び基準工数欄に各記載の数字が正確なものであると仮定しても、これを基礎として算出された作業率の低下割合は、右表に記載されている当該対象者自身に対する正確な作業能率の低下割合であると即断できず、いわんやこれを以て原告等組合員の平均した作業能率の低下割合であるとは即断できない。更に別紙五の表は、組合員一二四名のうち、三四名を抽出し、これを対象として作成されたものであることは前記の通りであり、又右対象者については、被告主張の怠業期間である昭和三四年五月一九日以降同年六月一日までの全期間の作業状況を集計し、これを基礎として右作業能率を統計的に算出したものではなく右対象者のある者については、個々的に右期間中の数日間に亘る一定期間の作業量のみを基礎として右作業能率を算出したものであることは、右表の記載自体によつて明らかである。ところで証人(省略)の証言によれば当時被告会社においては、右一二四名の組合員中五九名についてのみ作業日報を作成していたので、そのうちの三四名を抽出して右作業能率の低下割合を算出した旨の証言をしているが、右五九名のうち何故に別紙五の表にある特定の三四名をその対象者に選び、かつそのうちのある者については、個々的にその特定期間の作業員のみを基礎としたかについては、その合理的事由を首肯するに足る主張、立証がないのみならず、(被告の再主張事実中、一の(二)の記載の事実のみからは、右抽出方法についての合理性を首肯し得ないことは勿論である当時作業日報をとつていなかつた他の従業員全員の作業能率の低下割合が別紙五の表によつて算出された作業能率の低下割合と略々同一であることを認め得る何等の証拠もないから、右表に基いて算出された作業能率の低下割合を以て、直ちに右対象者三四名及びこれを含む原告等組合員に対する昭和三四年五月一九日以降同年六月一日までの間の平均した作業能率の低下割合であると即断することはできない。よつて以上(イ)乃至(ハ)に述べた理由により、本件争議中の被告会社の作業能率が被告主張の別紙五及び六の各表に記載の如く低下したものとは到底認め難いのであつて、右各表を前提とした前記被告の主張事実に割う証人(省略)の各証言はいずれも信用できないものといわなければならない。

尤も前記(ⅰ)(イ)の(ⅱ)及び(ⅳ)に認定の各事実、並びに証人(省略)各証言及び原告本人尋問の結果によれば、組合が前記斗争宣言を発した昭和三四年五月一日頃から同年六月一日頃までの間、被告会社の作業能率がかなり低下したことのあることが認められるが、他方右各証言並びに前記(1)の(ロ)に認定の各事実を綜合すると、右の如く被告会社の作業能率が低下した原因については、前記(1)の(ロ)に認定した通り、被告会社が本件争議に備えるため、その臨時保安要員として雇入れた訴外生野建設株式会社の人夫等が、不必要に原告等組合員を刺激するような行動に出で、就業時間中に作業場内に立入り、前記(1)の(ロ)(ⅱ)記載の如き威嚇行為及び暴言を以て作業中の原告等組合員を脅迫をするなどしてその作業を妨害する様な行為をなし、又同(ⅲ)の如く組合員が休憩時間を利用して労働歌を歌い、デモ行進を行つている際に、右人夫等が組合に前記の如き暴行を加えるため、原告等組合員と右人夫等との間に摩擦が生じ、これらのことが主たる原因となつてその作業能率が低下するに至つたこと、そしてその間において、組合は昭和三四年五月二一日付書面を以て被告会社に対し、右人夫等に対する善処方を求めた外、その頃口頭等を以て度々右人夫等を退去させるよう要求したが、被告会社において右人夫等を退去させなかつたので、その後も前記の如く人夫等が組合員の作業を妨害する等して右組合員と人夫等との間に摩擦が生じ、引続き作業能率が低下したものであること、なお、組合は前記斗争宣言をするに除し、その斗争方針として、ビラ貼りや組合旗を立てたり、休憩時間内又は終業後に労働歌を歌い、デモ行進を行うことを決めていたに過ぎないのであつて、被告主張の如き怠業を行うことを決定したことはなく、したがつて、右斗争宣言後も、組合において組織的に被告主張の如き怠業行為を行うことを計画したこともなければ、そのような指令を出したこともないこと、以上の如き事実が認められ、<中略>他に右認定を左右するに足る証拠はない。

してみれば、組合がその争議手段として組織的、計画的に被告主張の如き怠業行為を行い、以てその主張の如く作業能率を低下させるものとはいい難いし、又前記の如く本件争議中に作業能率が低下したことについては、被告会社も大きな責任があつたものというべきであるから、右作業能率の低下したことを以て、本件ロックアウトにその正当性があるものとは到底いい難い。

(3)  出張拒否について

次に被告会社が、組合員である吉岡実、玉井伊佐武、小林務、津山光雄、上野羊治郎、辻照爾、佐々木芳一、坂口保雄等に対し、別紙七の「出張拒否状況」に記載の通り、昭和三四年五月一六日、同月一九日、同月二〇日、同月五日の四日間に、農林省津風呂ダムや、山口県、広島県等に出張を命じたところ、右の者等がいずれも右出張命令に応じなかつたことは当事者間に争いなく、又<証拠―省略>によれば、被告会社は右の外にも、当時組合員であつた山口八郎、今西登夫、吉岡博信、米川幸治等に対し、別紙七に記載の通り、前記日時に、前記場所に出張を命じたが、右の者等も右出張命令に応じなかつたことが認められる。そして更に証人<省略>の各証言を綜合すると、被告会社は、その業務の性質上、被告会社の製品である機器を取引先に納入した場合において、当該取引先に対し、これを現地に据付け、又は右据付けの指導をする等の契約上の義務を負担している場合があり、かつそのために前記の如く従業員を現場に出張させる必要のあること、そして前記出張命令は、いずれも右の必要に応じて組合員にその出張を命じたものであることが認められ、他に以上の認定を左右するに足る証拠はない。

ところで原告は、右出張を命ぜられた者はそれぞれ当時当該出張のできなかつた理由があつたので、その旨を被告会社に申出て、その諒解を得て正当に右主張の免除を受けたものであると主張しているが、右原告の主張事実に副う<証拠―省略>たやすく信用できず、他に右原告の主張事実を認め得る証拠はない。却つて<証拠―省略>並びに弁論の全趣旨によれば、前記の者等は、それぞれ別紙七の「出張拒否状況」の「拒否理由欄」に記載の事実を理由として右出張命令に応じなかつたものであることが認められるところ、右のうち病気乃至疲労を理由とするものについては、その者が全部当時真実右出張に堪えられない程の病気乃至疲労をしていたと認め得る適確な証拠はなく、<中略>又その他のものについては、その申出の事実が真実であると認め得る証拠がないし、かつ右理由自体右出張を拒否する正当な理由たり得るものとは解し難い。のみならず、証人<省略>の各証言によれば、平常時には、組合員において右出張のできない特段の事由がある場合は格別それ以外の場合には被告会社の出張命令を拒否したことはほとんどないこと、しかるに前述の出張命令に対しては一人の例外もなく一斉にこれを拒否し、他に本件争議中、被告会社の命令に応じて出張した組合員は全くなかつたこと、しかも右出張拒否は、前記斗争宣言直前の賃上交渉の難航していた時及び右斗争宣言後になされたものであること、なお組合は過去の争議において、所謂出張拒否をその争議手段として用いたことのあること、がそれぞれ認められるところ、以上の如き諸点を綜合して考えれば、右出張拒否は被告主張の如く組合の意思に基く争議行為としてなされたか否かは暫く措くとして、少くともその出張を命ぜられた者が、互いに意思を連絡し、集団的な争議手段としてこれを行つたものと認めるのが相当である。

しかしながら、右の如き出張拒否により被告会社が当時具体的にどれだけの損害を被り、又将来、その業務遂行に関し、現実に如何なる不利益乃至損害を受け又は受けるおそれがあつたかという点については、何等の立証もないのみならず、却つて証人<省略>の各証言を綜合すると、被告会社は、前記の如く吉岡実その他の組合員がその出張を拒否したので、その頃被告会社の下請会社である訴外生野建設株式会社及びその他の訴外会知に依頼して、同訴外会社の従業員を右出張拒否をした組合員に代つて現場に出張させたこと、そして右出張を拒否した組合員は、そのまま当時被告会社の作業場内で就業させたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

してみれば、前述の如な程度の出張拒否により、被告会社において、ロックアウトをするに必要な通常の受忍義務を超える程の大きな損害を被り、又は被るおそれがあつたものとは認め難いから、右出張拒否が組合の争議行為としてなされた否かを判断するまでもなく、右出張拒否をもつて本件ロックアウトにその正当性があるものとは到底認め難い。

(4)  正副班長の一斎休暇について

最後に、被告会社の仕上工場、機械工場、製岳工場及び倉庫係の各正副班長のうち、家原保三(仕上工場の班長)松井賢司(同上)、倉橋達幸(同副班長)、東脇義孝(機械工場副班長)、西田竹三郎(倉庫係副班長)、昭次こと藤沢昭二(製岳工場班長)、住友廷夫(同副班長)の七名が、昭和三四年六月一日に全部休暇欠勤をしたこと、及び右七名の者がすべて当時組合員であつたことはいずれも当事者間に争いないところ、証人<省略>の各証言によれば、被告会社においては、工務部長から被告会社の生産計画に基く作業命令が各作業現場に出され、右各作業現場の班長又は副班長がこれに基いて現場の各作業員に対する仕事の割当てを行うこと、又右班長又は副班長は、現場において各作業員を監督すると共にその作業状況を作業日報に記載してこれを工務部長に報告する役割をしていること、したがつて右現場の正副班長が一斎に欠勤した場合には、被告会社の生産計画の遂行に対し、他の一般の従業員が欠勤した場合に比し、より大きな支障の生ずることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

ところで原告は、右七名の者は、格別意思の連絡もなく、いずれも家庭事情或は旅行休養等を理由に当日被告会社の承認を得て正当に欠勤したものであると主張するが、右原告の主張事実に副う証人<省略>の各証言はいずれも後記各証拠に照らしてたやすく信用できず、他に右原告の主張事実を認め得る証拠はない。却つて証人<省略>の各証言及び弁論の全趣旨によれば、当時組合員であつてかつ正副班長であつた者は、全部で八名であつたが、そのうちの七名が前記の如く同一の日に一斉に休暇欠勤をしたものであること、又被告会社においては、従来休暇欠勤をする場合には、その前日迄に欠勤届を提出することになつていたが、前記七名のうち、西田竹三郎を除くその余の六名は、いずれも欠勤当日になつて右欠勤届を提出したこと(右西田竹三郎は無届)、しかもそのうち松井、東脇、住反の三名は有給休暇の届出をしたところ、被告会社においては右有給休暇の取扱をしなかつたが、これについてはその後何等の異議もなかつたこと、以上の如き事実が認められるし、又原告本人尋問の結果によれば、前記七名の者は、右休暇欠勤をする前夜、互いに相談をし、共同意思に基いて右休暇欠勤したことが認められ、<中略>他に右認定を左右するに足る証拠はない。してみれば、右休暇欠勤が被告主張の如く組合の意思に基く争議行為としてなされたか否かは暫く措き、少くとも前記七名の者が互いに意思を連絡した上、集団的な争議行為として右休暇欠勤をしたものと認めるのが相当である。しかしながら他方(イ)被告会社が昭和三四年五月二九日正副班長に対し、今後作業監督を厳重にし、かつ作業日報を特に詳しく記入するよう指示したことは当事者間に争いなく、右事実に、前掲<証拠―省略>並びに弁論の全趣旨を綜合すると、被告会社においては、前記(2)に述べた如く組合の斗争宣言後その作業能率が低下したので、昭和三四年五月二九日、工程会議を開いた上、被告会社の工務部長島岡富夫が現場の正副班長及び推進係を集めて、右正副班長等に対し今後現場における作業監督を一層厳重にし、かつ作業日報を従前より詳細に記載し、しかも迅速に提出するよう指示したこと、ところがその際における右工務部長の態度が、右作業能率の低下に関し、正副班長にその責任を迫究するが如き強い態度であつたので、右正副班長の大部分は、右の如き工務部長の態度に強い反感を抱いたこと、そして前記七名の正副班長の一斎休暇は、当該正副班長が右工務部長の強い態度に反感を抱いたことがその一因となつてなされたものであること、以上の如き事実が認められ、右認定に反する証人<省略>の各証言はたやすく信用できない。(ロ)のみならず、証人<省略>の証言及び弁論の全趣旨によれば、前記七名の正副班長が一斎に休暇欠勤をした当日には、被告会社の機械工場、木工工場、倉庫の各班長はいずれも出勤していたことが認められるから、前記七名の者の一斎休暇欠勤により、右機械工場木工工場及び倉庫における作業が被告主張の如くまひ状態になつたものとは到底認め難い。(ハ)又仕上工場及び製岳工場については、前記七名の正副班長の一斎休暇により、右各工場の正副班長が不在となつたため・該工場における被告会社の生産計画の遂行に何等かの影響があつたことは推認できるけれども、証人<省略>の証言によれば、通常の場合には、被告会社は一週間分程の作業工程計画を立て、これを班長に指示していたことが認められるし、その他前述の如き正副班長の役割から考えて、右一日のみの正副班長の欠勤により、右各工場の作業がほとんど不可能になつたとか、或はそれに近い状態になつたものとは認め難いのであつて、この点に関する証人<省略>の各証言はいずれもたやすく信用できない。(ニ)更に<証拠―省略>によれば、右六月一日の正副班長の休暇欠勤は、組合が予めこれを計画しかつその指令をして行わせたものではないのみならず、当時組合において将来その争議手段として継続的に右と同様の休暇欠勤を繰返すことを計画していたことは全くなかつたこと、したがつて当時被告会社が将来も引続き右の如き正副班長の休暇欠勤によりその損害を被るおそれはなかつたこと、以上の如き事実が認められ、右認定に反する証人<省略>の各証言はいずれも信用できない。

してみれば右正副班長の一斎休暇についても、これをもつて、未だ本件ロックアウトが正当なものであると認めることはできない。

(三)  以上述べた通り、被告主張の暴力行為、怠業、出張拒否、正副班長の一斎休暇等、その一つ一つの事由によつて、個々的に本件ロックアウトが正当なものであると認めることはできないし、又その全部を綜合しても、未だ本件ロックアウトが正当なものであると認めることはできない。

却つて、<証拠―省略>を綜合すると、次の如き事実を認めることができる。すなわち、原告を含む別紙一の選定者目録に記載の者からなる組合は、前述の通り、昭和三三年八月に結成されたが、本件争議当時は右組合が結成されてから日も浅く、組合員のなかには、その生活が困窮しているものも多かつたので、本件争議に当り、組合としては、ストライキ等組合員の賃金を喪失するような争議手段に訴えることを避け、前記(一)に認定の如き柔軟斗争を行うことにしたこと、ところが本件ロックアウトにより、右組合員等はその生活資金に窮し、その後本件ロックアウトが解除されて就労するに際し、その立上り資金として、取敢えず、被告会社から本件ロックアウト期間中の賃金の半額に当る金員を借り受け、かつその後の給料からこれを月賦で返済するというような実情となつたこと、一方これに対し、被告会社は本件争議当時、その資本金一四〇〇万円(その後倍額に増資)、従業員は原告等組合員を含め百数十名であつて、その企業の規模は所謂中小企業に属していたけれども昭和三一年から同三三年までの年間の純利益は、金一、五〇〇万円から金二、〇〇〇万円に上り、殊に昭和三三年当時は、金二、〇〇〇万円を超え、又本件争議のあつた昭和三四年にも年間金六〇〇万円の純収益があつたこと、したがつて本件争議当時における被告会社の経済的基盤は中小企業としてはかなり強固なものであつて、上来認定の如き争議状態の下において、乙第七号証の原本の通告文にある通り、自ら一応無期限に本件ロックアウトを行う余力を有していたこと、以上の如き事実が認められ、<中略>他に右認定を左右するに足る証拠はない。しかして以上認定の如き本件争議当時における組合側及び被告会社双方の勢力関係の下においては、前記に認定の如き争議状態の発生したことによつては、未だ本件ロックアウトを行う正当性はないものといわなければならない。

四  (被告会社の賃金支払義務について)

以上の理由により、本件ロックアウトは正当なものとは認め難いから、被告会社は民法第五三六条第二項により、原告を含む別紙一の選定者目録に記載の一二四名に対し、本件ロックアウト期間中である昭和三四年六月二日以降同年七月六日に至る三五日間の右一二四名の賃金を支払うべき義務があるところ、右一二四名の平均賃金及び本件ロックアウト期間中の賃金額が別紙二の「賃金明細表」に記載の通りであることは当事者間に争いないから、被告会社は前記一二四名の者に対し、右別紙二の「賃金明細表」中、末段の「三五日間の賃金」欄に記載の各金員を支払うべき義務があるというべく、又弁論の全趣旨によれば、右賃金の支払期はいずれもその頃到来していたことが認められる。

五  (結び)

よつて別紙選定者目録記載の一二四名の選定当事者である原告が、被告に対し、別紙二の「賃金明細表」中末段の「三五日間の賃金」欄に記載の金員の合計金額二五六万二、六八四円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和三四年九月二〇日以降右支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求はすべて正当であるからこれを認容し、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文の通り判決する。(裁判長裁判官三谷武司 裁判官後藤勇 内匠和彦)

別紙一 選定者目録<省略>

別紙二 賃金明細表<省略>

別紙三 平均賃金表<省略>

別表四 労務構成表<省略>

別表五 怠業期間(昭和三四年五月一九日以降同年六月一日まで)における職場別生産能率算出表<省略>

別紙六 怠業期間(五月一九日―六月一日)における職場別生産能率集計表<省略>

別紙七 出張拒否の状況<省略>

別紙八 現場正副班長一斉休暇状況<省略>

別紙一〇 <省略>

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